3度目の波で、もう絶対に後悔はしない。——「奪うAI」ではなく、「人が人らしく貢献する好循環」を創るまで。

――渡部さんが「トータルミッション」を立ち上げた原点には、ご自身の悔しい体験があるそうですね。
渡部:はい。私には、ずっと引きずっていた「後悔」がありました。1999年のIT革命のとき、そしてスマホが登場したとき。「時代が変わる」と肌で感じていながら、目の前の忙しさや安定を理由に、波に乗り切れなかったんです。
その後、大きな組織で働く中で、純粋に「貢献したい」と願うボランティアの方々の思いが、数の論理や組織の慣習に潰されていくのを目の当たりにしました。頑張る人ほど疲弊し、何もしない人が得をする。そんな日本の縮図のような光景を見て、「何かを変えなきゃいけない」という思いが、ずっと燻っていました。
――ご家族とのエピソードも、大きな転機になったと伺いました。
渡部:ええ。いちばんやるせなかったのは、当時保育園に通っていた娘のことです。仕事でいつも19時過ぎのお迎えになっていたのですが、ある日、娘が窓に背を向けて待っているのに気づいたんです。ほかの子が早く帰っていく中で、「どうせうちの親はまだ来ない」と、ぬか喜びしないように自分を守っていたんですね。
「ほかの家がおかしいんだ」と妻と言い聞かせていましたが、コロナ禍になり、本当はいちばん大切にすべき家族の時間を犠牲にしていることに、ごまかしがきかなくなりました。
――そこで出会ったのが、生成AI(LLM)だったのですね。
渡部:2023年、LLMの進化を見たときに「これは1999年のときと同じだ。時代が根底から変わる」と確信しました。今度こそ絶対に逃さないと、身辺を整理して2024年に独立しました。
世間では「AIに仕事を奪われる」と言われますが、私は逆だと思っています。AIは人間が作ったものです。正しく使えば、理不尽な手作業から人を解放し、娘との時間を取り戻し、純粋に社会へ「貢献」できる余白を作れる。心もお金も豊かになる好循環が作れるはずだ、と。
――しかし、現場へのAI導入は簡単ではありません。トータルミッションならではの強みは何ですか?
渡部:「効率化すれば幸せになる」とよく言われますが、現実はそう単純ではありません。効率化が進めば、今度は決めることの数が増えて別の疲れが生まれますし、デジタルに取り残される人も必ず出てきます。
だからこそ、私たちは現場に丸投げしません。言葉で動くAIは、その人の暗黙知に合わせて調整していく必要があります。新しい仕組みを入れる負担は私たちが引き受け、現場の皆さんと一緒に悩みながら、本当に動くようになるまで泥臭く伴走する。それが私たちのやり方です。
――最後に、多摩地区を拠点に描く「これからのビジョン」を教えてください。
渡部:イノベーションは、いつも小さなところから始まります。私たちが多摩地区にこだわるのは、ここには都心のオフィスにはない「余白」と「現実のフィールド」があるからです。
パソコンの中の事務作業を効率化するだけなら、都心でもできます。でも私たちがやりたいのは、AIを「現実の世界に伸びる腕(IoTやロボット)」にすること。たとえば、体の衰えを感じるシニアの方が、AIとロボットを使って農業や林業で、もう一度「攻めの人生」を楽しむ。そんなふうにAIと現実の社会を結びつけることで、日本全体を元気にする好循環を生み出せると確信しています。
AIのことは私たちに任せていただき、皆さんには「本来やりたかった挑戦」に、思い切り舵を切ってほしいですね。